"追い出された四畳半" 第21話
莉緒のきが止まった。 その線が、まみれの写真のに落ちる。
「私の母の遺骨を、荒川に流すって言ってたわね」 私の声は、く、しかし剃刀のように鋭く莉緒の鼓膜に突き刺さった。 「区の寺の預骨堂の所まで調べて、ハンコを押さなければ叩き割るって。……須藤さんとで、笑いながら話していたでしょう」
莉緒の顔から、完全に表が抜け落ちた。 「あ……それは……拓真くんが勝に……」
「あなたが私から奪ったのは、おだけじゃない」 私は写真を胸元に戻し、氷のようにたい目で見ろした。 「私がこの、母とのいにしがみついて、恥を忍んで耐えてきたそのものを、あなたたちはで踏みにじったのよ。……友達? 冗談はやめて。私は、あなたにけをかける理由を、ミリも持っていない」
莉緒は喉の奥で、ひゅっ、と息を詰まらせた。 彼女の体から、完全に力が抜けた。 フローリングのに両をつき、ただ呆然との目を見つめている。 自分がどれほど取り返しのつかない罪を犯し、どれほど酷な現実の壁に激突したのかを、ようやく骨の髄まで理解したようだった。
「連します」 配の刑事が、須藤の肩を掴んでちがらせた。 須藤はもう、暴れる気力すら残っていなかった。 錠をかけられた両をに垂らし、虚ろな目でを見つめたまま、無言で玄関へと引きずられていく。
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廊にる際、須藤は度だけ振り返り、私を見ようとした。 だが、私の揺るぎない線とぶつかった瞬、耐えきれないように目を逸らし、のに消えていった。
「桐原さん」 矢代監察官が、ちがれない莉緒を見ろして最通告を突きつけた。 「本午までに、あなたのの回りの私物をまとめて退してください。を過ぎた点で内に残されている物品は、すべて所権を放棄したものとみなし、公社側で撤・処分します。……また、当利得返還請求に関する正式な訴状は、あなたの民票の実、および職へ送達されます」
矢代は私に向き直り、く礼した。 「宇佐美さん、ご協力ありがとうございました。……変でしたね。今のけ渡し続きについては、落ち着いてから窓でお話ししましょう」
「……ありがとうございました」
矢代と警察官たちがり、鉄の扉が再び閉まった。
部のには、私と、に崩れ落ちたままの莉緒のだけが残された。
計の針は、午分を指していた。
のは、いつのにかに変わり、の切れから々しいの朝のが、だらけの窓ガラスを透かして差し込んでいた。
莉緒は、数分、ピクリともかずに泣き続けていた。 やがて、彼女はふらふらとちがり、誰に言うでもなく「あは……あはは」
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と壊れたような笑い声を漏らしながら、居のクローゼットをけた。
そこからの作業は、異様な景だった。 彼女は、自分が買い集めた価なブランド物のワンピースやバッグを、乱暴に黒いゴミ袋へと詰め込み始めた。 ハンガーからすは刻みに震え、途でが破れても構わずに押し込んでいく。 キャリーケースに入り切らない靴や化粧品が、のに散らばる。
私は何も言わず、台所の隅にち、その姿をただややかに見つめ続けていた。 助けをする気も、罵声を浴びせる気も起きなかった。 目のにいるのは、かつての同級でも、憎むべき敵でもなく、ただ自らが撒いた因果のにを取られて沈んでいく、れな漂流物に過ぎなかった。
午分。 莉緒は、パンパンに膨らんだつのゴミ袋と、で汚れたキャリーケースを抱え、玄関のタタキにった。
メイクは完全に剥げ落ち、目は赤く腫れがり、髪はボロボロに乱れていた。 彼女は靴を履き、ドアノブにをかけた。
そして、最に、振り返った。 その目には、私へのみ配でも、りでもなく、ただ底れない虚無が宿っていた。
「……茜」 莉緒の声は、掠れて聞き取れないほどさかった。 「あんた、最初から……私のこと、軽蔑してたんでしょ」
私は答えなかった。 ただ、静かに彼女の顔を見つめ返した。
莉緒は自嘲するように元を歪め、力なく首を振った。