"息子が私の家を売る夜" 第2話
その顔には、先ほどまでの「苦労する健気な嫁」の表は片も残っていませんでした。
「お義母さん、これ」
智美さんはエプロンのポケットから、私のさなの銭入れを取りしました。私が自分の部の引きしにしまっておいたはずのものでした。
「引きしの理をしておきましたから。このお財布と、郵便局の通帳は私が預かっておきますね」
「智美さん、それは私の……」
「で落としたりしたら変でしょう? 最、この辺りでも齢者を狙った詐欺やスリがいんです。お義母さんはもう、おを持ち歩く必なんてないんですから。必なものがあれば、全部私が買ってきます」
「自分のの記帳くらいは、散歩のついでに自分でけるわよ」
私ができるだけ穏やかな声でそう言うと、智美さんはく笑いました。その笑顔は、まるで駄々をこねる幼児をあやすかのように淡でした。
「自分がまだ全部できるとっているのが、番危ないんですよ。介とも話したんです。これからはおの管理も、病院の付き添いも、全部私たちが窓になるって。お義母さんは、余計な配をしないで、しくきすることだけ考えていればいいんです」
智美さんは私の返事を待たずに、銭入れを自分のエプロンの奥くへとしまい込みました。
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それは、暴力な略奪ではありませんでした。「親孝」と「介護」という美しい言葉で綺麗に包装された、個の格に対する静かな剥奪でした。
財布を取りげられ、通帳を取りげられ、所には「ボケが始まった」と言いふらされる。 そうやって周囲の堀を埋め、私から発言権と自己決定権をしずつ削ぎ落としていく。
智美さんがなぜそんなことを急ぐのか。 その理由を、私はまだ測りかねていました。単に寄りの世話が煩わしいから主導権を握りたいだけなのか、それとも、もっと別の目があるのか。
その答えは、っていたよりもずっとく、そして残酷な形で私のに転がり込んできました。
そのの夕は、苦しい沈黙のでみました。
午半を回った頃、息子の(介)が、くたびれたビジネスバッグを提げて帰宅しました。今で歳。堅の械部品メーカーで課職を務めていますが、ここ数は業績振でボーナスが幅にカットされていると、以こぼしていました。
「ただいま……」
「お帰りなさい、介さん。お疲れでしょう。すぐご飯にするわね」
智美さんが甲斐甲斐しく夫の着を受け取ります。 になる孫娘の由紀が、階からりてきました。受験を控えている由紀は、制のまま疲れた顔で卓につきました。
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「おばあちゃん、痛まない?」
由紀が、私の隣に座りながら声で尋ねてくれました。
「ええ、丈夫よ。由紀ちゃん、勉遅くまで変ね」
「ううん。おばあちゃんこそ、あんまり無理しないでね」
由紀のその何気ない言が、乾ききった私のにじんわりと染み渡るようでした。このので、私をの「普通の」として扱ってくれるのは、この孫娘だけでした。
介が卓の端に腰をろし、缶ビールをけました。プシュッという鋭い音が響きます。
「母さん、はどうだ」
介はビールを喉に流し込みながら、線を私に向けずに言いました。
「ずいぶん良くなったわ。来週の診察で、もう通院も終わりになりそうよ。だから介、そろそろ練馬のに戻ろうかとうの。これ以、智美さんにも迷惑をかけられないし」
私がそう切りした瞬、卓の空気がピシリと凍りつきました。
智美さんが、お噌汁のお椀を介のに置くをピタリと止めました。そして、げさに困ったような顔をして、介を見つめました。
「ほらね、介さん。お義母さん、またそんなことを仰るのよ」
介は箸を止めたまま、困惑したように眉をひそめました。
「母さん……で暮らすなんて無理に決まってるだろ。今回はたまたま所のが見つけてくれたから良かったものの、もし呂で倒れて何も発見されなかったらどうするんだよ」
「あれは、庭の植鉢をかそうとしてバランスを崩しただけよ。