みかん小説
本棚

"息子が私の家を売る夜" 第6話

として扱いたいのであれば、徹底にその役を演じてあげましょう。 彼らが自分たちの罪さに気づくこともなく、完全に勝利を確信したその瞬に、元の梯子を音をててしてやるために。

私は桐の箱の蓋を閉じ、それを枕元に置きました。 そして、久しぶりにく、静かな眠りにつきました。

翌朝、の空がみ始めた頃、私はいつも通りに目を覚ましました。

昨夜のえ込みが嘘のように、の柔らかな差しが障子を通して部を照らしていました。私は丁寧に布団を畳み、支度をえました。髪を櫛で梳かし、背筋を伸ばして部ました。

キッチンでは、智美さんが朝の支度をしていました。 フライパンで卵を焼く油の匂いと、炊飯器からる湯気の匂いが漂っています。

「あ、お義母さん。おはようございます。もう起きてこられたんですか? まだ寝ていらしてよかったのに」

智美さんは振り返り、昨夜と同じ、完璧に作り込まれた「優しい嫁」の笑みを浮かべました。

「おはよう、智美さん。今朝はの調子がとてもいいのよ」

「そうですか。でも無理は禁物ですからね。そこに座っていてください」

やがて、目をこすりながら介が起きてきました。 介は私と目がうと、瞬だけ線を泳がせ、ぎこちなく会釈をしました。

「……おはよう、母さん」

広告

「おはよう、介。今も仕事、忙しいの?」

「まあ……末だからな。いろいろとて込んでるよ」

介は逃げるように洗面所へ向かいました。その背は、昨夜の密談をった私の目には、ひどく卑屈でさく見えました。

やがて、制姿の由紀もりてきて、の朝が始まりました。 焼き鮭、卵焼き、お噌汁、米。 どこにでもある、絵に描いたような平穏な庭の朝の景でした。

「ごちそうさま。わたし、先にくね。おばあちゃん、いってきます」

「いってらっしゃい、由紀ちゃん。に気をつけてね」

由紀が元気よく玄関をていくと、再びに、だけのたい空気が戻ってきました。

介がぬるくなったお茶をみ干し、スーツのネクタイを締め直しました。 智美さんが、器を片付けようとがった、まさにその瞬でした。

「智美さん」

私は、静かに呼び止めました。

「はい? 何ですか、お義母さん」

智美さんは、片付けのを止めずに振り返りました。 私は、カーディガンのポケットにを入れていたを、ゆっくりとテーブルのしました。

コトン。

静まり返ったダイニングに、さな乾いた音が響きました。 テーブルのに置かれたのは、古びた、しかし入れのき届いたさな桐の箱でした。

智美さんの線が、その桐の箱に吸い寄せられました。

広告

洗い物のスポンジを持った彼女のが、空でピタリと止まりました。 洗面所から戻ってきて着を羽織ろうとしていた介も、その箱を見た瞬、息を呑んでち尽くしました。

の表から、瞬にして常の仮面が剥がれ落ちていくのが分かりました。

「お義母さん……これ、何ですか?」

智美さんは、声を震わせないように必で抑えながら尋ねました。しかし、その瞳の奥には、獲物を見つけた獣のような、ギラリとした欲望のが宿っていました。

私は、穏やかに微笑みました。 まるで、何もらない、判断能力の衰え始めたれな老婆のように、しだけ頼りなげな線を宙に漂わせながら。

「これね、私の実印なの」

私の言葉に、介の喉仏がゴクリときくしました。

「実印……ですか?」

智美さんが、吸い寄せられるようにテーブルへとづきました。

「ええ。昨夜、部の片付けをしていたら、バッグの底からてきてね。健さんが作ってくれた切なものなんだけど……私、最本当に物忘れがくてね」

私は自分のこめかみを、し困ったように指先で軽く叩いてみせました。

「さっきも、鏡をどこに置いたか分からなくなって、を探し回ってしまったのよ。こんな切なものを自分で持っていたら、いつかどこかへ失くしてしまいそうで怖くてね。

……智美さん」

私は桐の箱にを添え、それを智美さんの方へと、スーッと静かに滑らせました。

「これ、あなたが預かっていてくれないかしら」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: