"息子が私の家を売る夜" 第8話
介は、私と顔をわせることを骨に避けるようになりました。 朝は私が起きてくるににをていき、夜は族が寝静まった過ぎに、わざと音を忍ばせて帰宅する。休も「休勤だ」「取引先のゴルフだ」と理由をつけては、朝からでかけていきました。
彼がたまにリビングで私と鉢わせても、線は私の顔をすり抜け、テレビの画面やスマホの液晶へと逃げていきました。
罪悪。 そして、自分がをさずに母親の財産が処分されようとしていることへの、ろめたさと堵。
介のその卑屈な背を見るたびに、私の胸の奥にたい針が本、また本と突き刺さるようでした。
けれど、私はまだ、彼を完全に見限ることはできませんでした。 、私ので育ててきた息子です。をせば夜通し病し、受験に失敗して泣いた夜には肩を抱き締めて励ましました。彼が優しい子であることは、誰よりも私がっているはずでした。
もしかしたら、彼は智美さんの烈なプレッシャーに押されて、断り切れずに流されているだけなのではないか。 本当は、父親が遺したを売りたくなどないのではないか。 誰かが背を押してやり、逃げを作ってやれば、踏みとどまってくれるのではないか。
その甘い期待を、私はまだ捨てきれずにいたのです。
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だから、私は介に、つの会を与えることにしました。 彼が自分の志で踏みとどまり、あの桐の箱を私の元へ返しにくるための、度の試でした。
度目の会は、曜の夕暮れでした。
その、介は珍しくに帰宅しました。智美さんが所のスーパーの特売にかけており、由紀も予備の講義で留守にしていました。 静まり返ったリビングで、介はネクタイを緩め、ソファにく腰掛けて、ぼんやりと井を見げていました。
私は杖を突いて客をると、台所でたい麦茶をつのグラスに注ぎました。氷がカランと音をてます。
「介、お疲れさま。たいお茶、淹れたわよ」
私はグラスのつを、リビングのローテーブルに静かに置きました。 介はビクッと肩を震わせ、慌てて背筋を伸ばしました。
「あ……母さん。わざわざすまない。、もう痛まないのか?」
「ええ、平気よ。もうのなら、杖がなくても歩けるくらい」
私は介の向かいの布張りの子に、ゆっくりと腰をろしました。 夕暮れの暗いが、カーテンの隙から差し込み、介の疲れた横顔を照らしていました。目元のシワ、くなり始めた頂部。かつて私の背丈を追い越したの誇らしげなは、すっかり特の疲弊をまとった男になっていました。
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「介。覚えているかしら」
私が静かに切りすと、介は麦茶のグラスを握ったまま、線を泳がせました。
「何を……?」
「あなたが学の休みのことよ。練馬のの庭で、自転の練習をしていて転んだでしょう。膝をきく擦りむいて、泣きながら縁側にび込んできた」
介のが、微かに止まりました。
「お父さんがね、オキシフルを脱脂綿に浸して、痛がるあなたのを撫でながら言ったのよ。『介、男なら痛いのをするのも事だが、曲がりきれない角のでは、ちゃんとブレーキをかける勇気を持つんだぞ』って」
リビングに、古い置き計のチクタクという音だけが響きました。 介の喉が、引きつるようにきました。
「……急に、どうしたんだよ、昔の話なんか」
「あの庭のハナミズキ、あなたがまれた記にお父さんと植えたでしょう。今も、赤い実をたくさんつけている頃かしらね。あそこにはね、介、あなたが育ったのすべてが詰まっているのよ。柱の傷も、壁の落きも、お父さんが曜で直した網戸の建て付けも」
私は介の目を、まっすぐに見つめました。
「あのにあるもの、しずつ片付けなくちゃいけないとはっているの。でもね、のに渡して、ブルドーザーで壊してしまうに……あなたと緒に、いをつずつ確かめながら理したいのよ。
介、あなたはどうう?」
私の言葉は、介にとってらかな救命ボートのはずでした。