"息子が私の家を売る夜" 第11話
私はマグカップを両で持ち、介の目を見つめました。 彼の返答を、じっと待ちました。
しかし、介のから漏れたのは、私の魂を底底からえ切らせる、乾いた笑い声でした。
「ふっ……定期預って、いくらだよ」
介は自嘲気に角を歪めました。その目には、濁ったが浮かんでいました。
「百万円か? 百万円か? 母さん、世のを甘く見すぎだよ。今の代、そんなハシタで何ができるって言うんだ? 俺が抱えてるローンの残、いくらあるかってるのか? あと千百万だよ。由紀が私の医や薬学部にったら、学費だけでで何千万かかるとってるんだ」
介は歩、私に詰め寄ってきました。酒の匂いと、タバコのヤニの匂いが混ざった温かい息が、私の顔にかかりました。
「何が『おかしな』だよ。俺たちは必なんだよ! 真面目に働いて、族を養おうとして、それでも首が回らなくなってるんだ! 母さんみたいに、もらって、昔のいにしがみついて、ただのんびりきてるには、今の俺の苦しみなんて分かりっこないんだよ!」
介はそう吐き捨てると、残りのをシンクにぶちまけました。 ジャーッという音が、静かな夜の台所に暴力に響きました。
「……もう寝るよ。余計な配しないで、く部に戻れよ」
介は私を瞥もせず、ドカドカと階段をがっていきました。
広告
階のドアが、バタンと乱暴に閉まる音がしました。
私は、め始めたマグカップを抱えたまま、暗い台所にでち尽くしていました。
度目の試。 結果は、完全な破綻でした。
介は、母のを「ハシタ」と呼び、自らの無能と欲望の責任を、老いた母親のそのものへと転嫁したのです。
彼はもう、私の息子ではありませんでした。 自分の活を守るためなら、母親の肉を削ぎ、骨をしゃぶることすら「正当な権利」だと信じ込んでいる、ただの浅ましい略奪者でした。
「……そうね。分かりましたよ、介」
私はマグカップの牛乳を、シンクに静かに流しました。 い液体が、排へと吸い込まれて消えていきます。
私ののにあった、最の未練と躊躇いが、そのい液体とともに、完全に流れっていきました。
もう、容赦はしない。 あなたたちが仕掛けてきたこのゲーム、最まで付きってあげましょう。
翌週の曜の夕方、破滅への歯が、決定な音をてて加速しました。
事件は、リビングの片隅から始まりました。
の由紀が、予備から帰宅した直のことでした。 由紀は自分の部で使う赤シートを探すため、リビングの話台の引きしをけました。そこは族共の文具がしまってある所でした。
引きしの奥をかき回していた由紀のが、ふと止まりました。
広告
彼女が引きしの底から引っ張りしたのは、青いクリアファイルに挟まれた、何枚かの類でした。
その表には、太いゴシック体でこう印刷されていました。
『産売却査定報告 京都練馬区関町丁目 建物』 『査定予価格:千百万円』
そして、その類のには、役所で配布されているパンフレットが何冊も挟まれていました。 『成見制度の利用の引き』 『任見と族信託による財産管理の実務』
「……これ、何?」
由紀の震える声が、静かなリビングに落ちました。
キッチンで夕の支度をしていた智美さんが、その声に驚いて振り返りました。由紀のにある類を見た瞬、智美さんの顔から血の気がサーッと引いていきました。
「由紀! 何勝にのものを漁ってるの!」
智美さんは濡れたをエプロンで拭くこともせず、血相を変えて駆け寄ると、由紀のから類を力づくでひったくろうとしました。 しかし、由紀はをかわし、類を胸に抱え込みました。そのきな瞳に、信じられないものを見るような絶望とりのが燃えがっていました。
「お母さん、これ何なの!? 練馬のおばあちゃんの……査定って何!? 売却って何なの!?」
「由紀、静かにしなさい! あなたには関係ない話よ!」
「関係ないわけないでしょ! おばあちゃんのを売るつもりなの!? おばあちゃん、まだあそこにむって言ってるじゃない! が治ったら帰るって、毎リハビリ頑張ってるじゃない!」