"息子が私の家を売る夜" 第14話
お義母さんの老は、私たちが骨を埋める覚悟でお世話させていただきますからね」
「ええ、智美さん。よろしくお願いしますね」
私は穏やかに微笑み、茶にをつけました。
「善は急げと言いますから、さっそくの産さんに連絡を入れましたの。今の午に、担当の営業さんが類を持って、このに来てくださることになりましたわ。売却の媒介契約と、続きの委任状にサインをいただく予定ですの」
「あら、ずいぶん際がいいのね」
「ええ、しでもく売れる期を逃したくありませんから。お義母さんは、午はお部でゆっくり休んでいてくだされば結構ですからね。サインと押印は、介が代理としてすべて済ませますから」
智美さんの目は、すでに千百万円の売却益をどう分けするかで輝いていました。
朝が終わり、介と智美がそれぞれ支度をえるため階へがったでした。
玄関の方へ向かおうとした私の袖を、誰かが背からさく引きました。
振り返ると、制姿の由紀がっていました。 その目元は昨夜の涙で赤く腫れていましたが、その瞳の奥には、凛としたいが宿っていました。
「由紀ちゃん……」
由紀は周囲を警戒するように素く見回すと、私のに、さく折りたたまれた角い付箋をギュッと押し込んできました。
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「おばあちゃん」
由紀は、元で蚊の鳴くようなさな声で囁きました。
「言われた通りに……昨の夜、公衆話から、あの名刺の番号に話したよ」
私は、のひらのの付箋の触を確かめました。
「ありがとう、由紀ちゃん。相の方は、何て?」
「『今の午半に、練馬の類を持ってそちらへ伺います』って。……おばあちゃん、本当に丈夫なの?」
由紀の瞳に、配とのが揺れました。
私は、孫娘のを優しく撫でました。 滑らかで温かい、若い髪の触。
「丈夫よ、由紀ちゃん。おばあちゃんを信じなさい。あなたを傷つけるようなことは、何つ起きないから」
「……うん」
由紀はさく頷くと、鞄を肩に掛け直して、力く玄関をていきました。
私は自分の客に戻り、由紀から受け取った付箋をきました。 そこには、几帳面な文字で、ある名とがかれていました。
『司法士・成瀬法律事務所 成瀬敬郎先 午半到着予定』
成瀬先。 き夫・健の来の親友であり、練馬のの登記をすべてがけてくれた、信頼できる法律でした。
私は付箋をさく破り、ゴミ箱の奥くに沈めました。
壁の計を見ると、午を回ったところでした。 決戦の午まで、あと。
私は、理タンスの引きしから、用のな紬の着物を取りしました。
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相が台をえてくれたのです。 こちらも、最の装で、その茶番劇の幕を引いてあげなければ失礼というものでしょう。
私の胸ので、たい刃のような静寂が、ゆっくりと研ぎ澄まされていきました。
午。の斜めに差し込む陽射しが、畳の客の障子を淡い黄に染めていました。
私は、鏡のに正座していました。 入れのき届いた黒漆のブラシで髪の混じる髪を丁寧にろへ撫でつけ、梳き毛をえてさなシニヨンにまとめます。鏡のに映る自分の顔を、じっと見つめました。 目尻にはの歳が刻み込んだい皺が刻まれています。けれど、その奥にある瞳には、点の曇りも、老いによる濁りもありませんでした。
理タンスの番の引きしから取りしたのは、濃紺の島紬の着物でした。 派な柄はありません。の表面に細かく織り込まれた染めの幾何学模様が、の角度によって鈍くいの艶を放ちます。帯は、博織の献柄。に紺の本独鈷が凛とる、引き締まったい帯でした。
これは、、き夫・健の周忌の法を終えた、自分で仕て直した着物でした。 『子、紬は普段着だと言うもいるが、等な島はどんな席にても恥ずかしくない。本筋の通ったのための着物だ』 健がそう言って、帯を締める私の背を優しく叩いてくれたのの温もりが、絹のたい触の向こうから蘇ってくるようでした。