"息子が私の家を売る夜" 第21話
「お茶番劇は、これで終わりです。ここからは……私と、健さんのための、本当の清算を始めましょうか」
玄関のドアが閉まる鈍い衝撃音が、リビングの隅々にまでたく反響していました。
都リアルエステートのさんが逃げるようにちったあとの部には、言葉を失ったの息遣いと、壁の古い掛け計が刻むチクタクという秒針の音だけが残されていました。
テーブルの央には、朱肉にまみれて赤黒く汚れた牛の印鑑と、練馬区役所が発した『印鑑登録廃止申請』の控えが、無造作に転がっていました。
「……罠だったのね」
にへたり込んだままの智美さんが、く濁った声で呟きました。 伏せられていた彼女の顔が、ゆっくりとがります。えられていたはずの髪は乱れ、ベージュの品なスーツの胸元は無様に崩れていました。その瞳には、先ほどまでの「献な嫁」の面など片もなく、底れぬ憎悪と悔しさが煮えたぎっていました。
「お義母さん……最初から、こうするつもりだったのね!? 自分がボケたふりをして、私に印鑑を預けて……恥をかかせるために、あの産ので待ち伏せしていたのね!?」
智美さんは膝をに擦り付けながら、狂ったようにちがりました。そして、私に向かって細い指を突きつけました。
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「なんて湿な! 族を騙して、試して、嘲笑って……! それが、息子の親のやることですか!? 私たちはね、あなたのためにをげて、毎の事も介護も、全部やってあげていたんじゃない! それを……棒みたいに扱って!」
智美さんの甲い絶叫が、狭いリビングの壁を震わせました。 しかし、私はじろぎつせず、背筋を伸ばしてその言葉を受け止めました。私の隣に座る成瀬先も、微だにせず、ただ静かに腕を組んで智美さんを見つめていました。
「智美さん」
私は、く落ち着いた声でをきました。
「私はあなたを度も試してなどいませんよ。あの朝、私が実印を差しした、もしあなたが『お義母さん、こんな事なものは持っていられません』と押し戻していたら、このがテーブルのに乗ることはありませんでした」
「な……」
「介に、度尋ねました。いの詰まったをどううか、印鑑を返してくれないか、おに困っているなら正直に話してくれないか、と。……介は、そのすべてを自分の都のいい嘘で塗り潰し、私のを払いのけました」
私は線を、テーブルに突っ伏したまま肩を震わせている息子へと落としました。
「介。顔をげなさい」
私の静かなに、介の体がビクッとねがりました。 介は恐る恐る顔をげました。その目は真っ赤に充血し、頬には涙と脂汗がドロドロに混ざりってっていました。
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歳になったの男が、まるで親に隠れて悪事を働き、逃げを失った子供のように怯え切っていました。
「母さん……っ、母さん、悪かった……! 俺が……俺が悪かったよ……!」
介は子から転がり落ちるようにして畳のに膝をつき、私の元に両をついていつくばりました。
「でも、聞いてくれ! 俺だって、こんなことしたくなかったんだ! 全部、会社の業績が悪くて、ボーナスが半分になって……こののローンがあとも残ってるんだよ! 毎万、ボーナスには万……払えなくなったら、このを競売にかけられて、俺たちはに迷うしかなかったんだ!」
介は畳に額を擦り付け、ボロボロと粒の涙をこぼしながら叫びました。
「由紀の学の学費だってある! 親父の遺してくれた練馬のがあれば、全部助かるって……智美にそう言われて、俺、どうしても断れなくて……! 母さん、お願いだから許してくれ! 俺はおのたったの息子じゃないか! 親父だって、俺たちの活を番に配してくれるはずだろ!?」
血の繋がった息子が、母親のにすがりつき、んだ父親の名を盾にして許しを乞う姿。 かつてなら、私の胸は締め付けられ、息子の涙を拭うために、自分のを削ってでも助け舟をしていたかもしれません。
けれど、今の私の胸に広がっていたのは、い、底のない静寂だけでした。
「介」