"席次表から消された姉" 第19話
庭裁判所の続きは迅速にみ、克己さんには正式に公な成見が選任された。 世田の自宅と預貯はすべて差し押さえられ、保全された。 冴子さんには過の使い込みに対する返還請求が突きつけられ、彼女は贅沢品や着物を束文で質入れしながら、郊のさな賃貸アパートへを寄せることになったとの噂で聞いた。
翔太の転落も、容赦のないものだった。 克己さんの弁護士から会社宛てに親族詐欺に関する照会が届いたことで、コンプライアンス部の調査が入った。 業務の横領こそ免れたものの、私活における著しい信義則違反と社会信用の失墜とみなされ、彼は形のコンサルティング部から、関にある物流倉庫の資材管理部へと遷された。 数百万円に及ぶ結婚式のキャンセル料と装の違約は、全額が翔太ひとりの肩にくのしかかった。
度だけ、私のスマートフォンに、見らぬ番号から震える声の着信があった。
『美奈……助けてくれ。母さんは発狂して毎暴れてるし、僕の料じゃ違約が払えないんだ……。頼むから、もう度やり直してくれ……』
スピーカーから漏れるその惨めな声を、私はただ無言で聞き届けた。 かつて私のを支配し、姉の尊厳を踏みにじろうとした男の、れな断末魔。
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私は何も言わず、赤い通話終ボタンを静かにタップした。 そして、その番号を着信拒否リストの奥くへ放り込んだ。 私のが、あの男たちと交わることは、度とない。
* * *
克己さんは、綾が勤務する法の系列にある、清潔で庭な介護老保健施設へと入所が決まった。 緑豊かな摩川沿いに建つその施設で、克己さんは専のスタッフによるリハビリを受けながら、穏やかな々を取り戻していた。
週末、私と綾が訪ねると、克己さんは当たりの良い談話で、子からちがる訓練の成果を嬉しそうに見せてくれた。
「美奈さん、綾さん。見てごらん、今はすりなしで歩歩けたよ」
誇らしげに笑うその顔には、かつて病院のベッドで怯えていた老のはどこにもなかった。 自分ので、正当な対価を払い、としての尊厳を保ちながら受ける介護。 それがどれほどにきる力を与えるかを、私は克己さんの笑顔から教えられた。
* * *
の旬。 私は目黒のマンションを引き払い、練馬にある姉の1DKのアパートへと戻ってきた。 ふたりで暮らすには狭な部だったけれど、敷居をまたいだ瞬に漂うあの微かな消毒液と柑橘系のハンドクリームの匂いに、の底から堵のため息が零れた。
夕暮れ。狭いキッチンで、ふたり並んで夕の支度をしていた。
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換気扇の回る音とともに、昆布と鰹節の汁のいいりがさな部に満ちていく。
「美奈ちゃん、根切れた?」
「うん、乱切りでいいんだよね?」
まな板ので、根や参、豚肉が際よく刻まれていく。今夜の献は、具だくさんの豚汁だった。 鍋の蓋をけ、湯気のに噌を溶き入れる姉の横顔を見る。
目のの隈はすっかり消え、肌には健康な血が戻っていた。 首に巻かれたナースウォッチ。そして、お玉を持つその。 の乾燥と、に何回も繰り返す洗いとアルコール消毒のせいで、指先は相変わらずくひび割れ、あかぎれが痛々しく残っていた。
私はそっと、自分のを姉のにねた。
「お姉ちゃん」
「ん? どうしたの急に」
「……この、すごく綺麗だよ」
綾は瞬きょとんとした顔をして、それから自分の節くれった指先を見つめ、照れくさそうに笑った。
「何言ってるの。シワシワで、ガサガサじゃない。美奈ちゃんののほうがずっと柔らかくて綺麗よ」
「違うよ」
私は首を横に振った。
「の痛みを拭って、命を支えて、誰かの尊厳を守ってきただもん。世界で番、誇らしいだよ」
私の言葉に、綾の瞳が微かに揺れた。 彼女は何も言わず、ただ嬉しそうに目を細め、お玉を置いて私のをぽんぽんと優しく撫でてくれた。 幼い頃から、私が泣きそうになるたびに、何度も何度も私を守ってくれた、あの温かいの平だった。
卓に並んだ、湯気をてる豚汁と、炊きたてのいご飯。 豪華なホテルのフルコースでも、格式い料亭の懐料理でもない。 けれど、自分のでち、自分の力で働き、する族と分けうこの質素な温もりこそが、何ものにも代えがたい本当の贅沢なのだと、胸の奥にじんわりと染み渡っていく。
窓のを見げると、京のたい夜空に、の冴え冴えとしたが静かに瞬いていた。 純のウェディングドレスも、虚飾に満ちた披宴も、私にはもう必なかった。
誰かの見栄の付属品としてではなく。 自分の名で、自分ので、するとを取りってきていく。
私の本当のが、この温かい湯気のから、静かに、力く始まろうとしていた。