"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第6話
「ならいいのか?」
「も分だめ」
言い方が急にきつくなった。
俺は建物を見げた。2階の端の部だけ窓が真っ暗だった。夜の9に7歳の子供が帰るの窓にかりがついていない。郵便受けの並びで1つだけがはみしているのが見えた。気の検針票だ。いこと差し込まれたままなのだろう。に濡れたこともあるのか、波打っている。
「じゃあな」
「うん」
俺は歩きした。角ので振り返ると、はまだ同じ所にっていた。俺が曲がるまでへ入らないつもりらしい。俺はもう度をげて角を曲がった。それから音をてないようにし戻って様子を伺った。は階段を登って、鍵をけて、暗いまま部に入っていった。かりはつかなかった。
に戻って、俺は番台の子に座ったままいことかなかった。役所に話をするべきなのかもしれない。学に伝えた方がいいのかもしれない。話番号を調べるところまではやった。そこでが止まった。
あの子は母親のことを聞かれるたびに嘘をつく。配させたくないから嘘をついている。俺がどこかへ話を持っていけば、は自分のせいで何かが起きたとうだろう。もう2度とうちののれんはくぐれない。
受話器を持ちげて番号を3つ押したところで、指が止まった。
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俺が話せることは何もない。名と、毎晩湯に来ることと、窓にかりがついていないことだけだ。それを伝えたら、この町の誰かがあの部の扉を叩く。叩かれたのことを、俺は何も引き受けられない。
俺は話を置いた。何もしないことを選んだわけではない。はそれを望んでいないかもしれない。ただ、それしかいつかなかった。
翌から毎晩送っていくのが決まりになった。今ではも最初のようには断らなくなった。坂の途での献を教えてもらうのが、俺の1の終わりになった。
「は揚げパンじゃない」
「何なんだ?」
「わかめご飯」
「それもよくあるなあ。好きか?」
「普通」
「1番は?」
「カレー」
「子供には気だな。おじさんは今何べたの?」
「俺は飯と噌汁と焼き魚だ」
「昨と同じ」
「毎それだ。飽きないの?」
「もう20飽きてない」
との会話が、俺にとってはよくなっていた。
1の終わりの朝、釜の音がおかしかった。は入っている。それなのに、湯がぬるい。俺は浴槽にの甲を沈めてすぐに引きげた。40度あるかどうかだ。42度の湯をっているにはっきりたい。
「これじゃ客はせないな。今……」
俺は入りにを遅らせる貼りを張った。作業着に着替えて釜のろに潜り込む。以は設備の会社に6いた。このの音は嫌というほど聞いた。
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空気の通りのどこかが詰まっている音だ。
具箱を引き寄せて部品をし始めたところで、ろから声がした。
「おじさん、何してるの?」
「学は終わったのか」
「今はいの。釜が調子悪い。今は湯がわかないかもしれない」
「治るの?」
「直す」
は俺の元にしゃがみ込んで、元を覗き込んだ。作業の邪魔になるのでがらせようとしたが、そのにが具箱にを突っ込んだ。
「これいる?」
「そっちじゃない。遅い方だ」
「これ?」
「それだ」
1度伝えると、はすぐに具の名を覚えた。2度目からは俺が言うに差ししてくる。
「次、回すやつでしょ?」
「よくわかったな」
「おじさん、回すに息止めるもん」
見られていた。俺は自分の癖を初めてった。
「ねえ、お呂さんってこういうのも直すの? 本当は業者を呼ぶの?」
「呼ばないの。がかかる。それに俺はの仕事でこういうのをやってた」
「の仕事?」
「回りの会社にいたんだよ。6な」
「じゃあなんでやめたの?」
「じいさんが体を壊したからだ」
湯垢が固まって空気の通りを塞いでいた。きして、部品を戻してを入れ直したのが3すぎだ。湯がき始める音がして、湯のち方が変わった。
夕方、俺は浴槽にの甲を入れた。42度だった。
「、せ」
「暑いよ」
「のひらじゃない。こっち側だ。この方が正しい温度が分かる」
は言われた通りにの甲をつけて、そのまま固まった。それから顔をげた。
「あったかい」
「42度だ。うちはずっとこの温度でやってる。