"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第7話
じいさんも親父もこの温度から1度もずらさなかった」
「なんで?」
「ぬるけりゃ帰りにえるし、暑すぎたら寄りが入れない。ちょうどいい温度ってことだ。42度、覚えとけ」
「私にも分かるようになる?」
「毎測ってれば分かる。の甲は嘘をつかない」
「じゃあも測る」
「測れ。ずれてたら教えろ」
「ずれてたらる?」
「そうだな。そのは俺が悪い」
は何度も湯にをかざした。かざしては引いて、また入れる。
「本当だ。全部同じっこ、しぬるい?」
「そこは覚えなくていい」
「じゃあ真んが本当の温度?」
「そういうことだ」
そののはいつもより4遅れて始まった。最初にのれんをくぐったのは、毎1番呂に入る元の老だ。湯に浸かってがって、番台のでを止めた。
「いつもの湯だった。も頼んだぞ」
「はい」
「42度でな」
「分かってます」
それだけ言って帰っていった。俺は自分が随分救われた気分になっているのに気づいた。こので守り続けていることをのから確かめたのは久しぶりだ。
その夜、脱所の子に常連の女性がく座っていた。いつものことだ。誰かと話したくて残っているのに、話す相がいない。昔ながらの湯は番台から脱所が見える。構造、見守りや防犯のためだ。
が牛乳を持って女性の隣にった。
「おばさんもこうやってむといいよ。
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腰にを当てるの」
「腰に?」
「そう、おじさんの真似」
「あら、まあ」
番台に座っていると、笑い声が聞こえた。あのの笑い声を聞いたのは、分何ぶりかだった。
2に入って、は湯がりに脱所の子でうたた寝をするようになった。首がかくんと落ちて、それでも起きない。よほど眠りが浅いが続いているのだとった。
俺は番台からその寝顔を見ていた。見ながら、初めて来た夜の言をまたいしていた。
——「ずっとここにいたい」
いすたびにどこかが引っかかる。子供の言葉として聞き流せばいいのに、聞き流せない。
その理由にい当たったのはその晩だった。俺が12歳のに父がくなった。釜でたく薪を公務へ受け取りにった帰りに、軽トラごと事故にあった。うちの湯は3止まって、4目に祖父が1でを入れた。
母はその2、番台にった。嬌のいいで、常連は母と話すために来ているようなところがあった。俺が14の、母は再婚することになった。相は隣の県の男だった。再婚が決まったの夜、母は俺の部に来て正座して言った。
「かず、緒にいきましょう。学は向こうでしいところにけばいいわ。学にがるんだし、ちょうどいいのよ」
「じいちゃんは?」
「おじいちゃんには話してある」
俺は返事をしなかった。
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祖父の部のかりが廊の隙から見えていた。祖母は俺がまれるにくなっている。あのをこのに1で残すことになる。
「俺はここにいる」
「本当にいいの?」
「うん」
「かず、無理をしてるなら言いなさい」
「してない」
「いつでも来ていいのよ。あなたの部は用するから」
「うん」
本当は違った。かないで欲しかった。母にここにいて欲しかった。その言葉は喉のところまで来て、そこで止まった。俺が言えば母は残る。残ってまた笑って、それで自分のを1つ潰す。そう考えた瞬にが閉じた。
母は涙を流しながらも荷物をまとめて、次の週にていった。んでいない。憎んでもいない。ただそれから20、俺は1度も自分がどうしたいかをにしていない。寂しいと言ったことも1度もない。
祖父はそのことを1度だけにした。俺が20の頃だ。
「かず、おはあのくべきだった」
「今更だろ」
「のために残ったなら、それは湯の温度と同じでな。にわせて決めたもんは、いつかわなくなる」
俺は聞き流した。祖父がくなったのはそのずっとだ。あの言葉のを考えたことは1度もない。
残ったのは2つの癖だけだ。困っているを放っておけないこと。自分の望みだけは言わないこと。者の方は商でよく笑われる。者の方は誰もらない。
俺は子ので丸まっているを見た。
——「ずっとここにいたい」
あれは俺が14のにみ込んだ言葉と同じ形をしている。