"七歳の女の子が握りしめた富士山の木札" 第10話
止められた元線。のない貯箱。毎晩この子が閉15分ののれんのにっていた理由が、そこに全部あった。
女性は若林さ苗と名乗った。33だという。座り方を何度も直しながら、若林さんは順に話してくれた。
「半に腰を痛めまして、それからくっていられないんです」
仕事はスーパーの惣菜の売りと朝の掃除を駆け持ちしていた。どちらもいのパートですので、勤め先の保険には入っていない。だから休んだはその分が丸ごと収入の穴になる。会社勤めならるはずの当ても、その働き方ではない。若林さんは淡々とそう言った。
「病院の方は、治療のおは国の仕組みでなんとかなっています。困っているのはそこではないんです。治るんですか?」
「治ります。ただ無理をすればまた同じことになると言われました。い物も持たなければしずつ戻ると……」
「がかかるんですね」
「はい。そのの分だけ、うちには何も入ってこないんです」
費などの活に関わる面だと若林さんは言った。1の当てと子供の当てでに5万円ほど入る。それは賃でほとんど消える。ガスは先に止められた。気もまでに払えなければ止まってしまう。
「娘が夜にていたことを私はりませんでした。気づいたのはつい数です。
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言わなかったから……。痛み止めをむと夜は起きられないんです。声をかけられても分からないんだといます」
若林さんは膝のでを握った。1ヶのほとんどを眠っているに過ごした。そのことで、このはこれから何も自分を責め続けるのだろう。
「若林さん、よければ湯だけでも使いに来てください」
若林さんはすぐに首を横に振った。
「それはできません。うちは湯が余ってます。夜には捨てるだけの湯です」
「宮さん、もう娘の分だけでもいただきすぎています」
「の話をしてるんではありません」
「同じことです。の好には値段がついていないから、返しようがないんです」
「返さなくていいんです」
「返せないものをこれ以いただくわけにはいきません」
若林さんは畳にをついた。をげたまま、はっきりした声で言った。
「これ以お世話にはなれません」
が俺の顔を見た。それから母の背を見た。札を握ったに力が入っている。
「にも言いました。もうってはいけませんと」
「私、伝いにってるんだよ」
「おのにそう言わせてしまっただけでしょう」
は何か言いたげな表をした。反論できないことを、この子はもう分かっている。
「お母さん……おじさんは悪で言ってるんじゃないよ」
「分かっているわ」
「じゃあなんでダメなの?」
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「にはの理由があるの」
「私、その理由嫌い」
俺は言葉を探した。施しではない。そう言いたかった。だが言い方が見つからなかった。を受け取らず、湯を使わせて、牛乳をませて、それを施しではないと言いはる理屈が、俺ののどこにもなかった。次の言葉を探すまでに随分がかかった。
「これはのものなので置いていきます」
俺は札を畳のに置いた。掘り直された富士がを向いていた。返しに来ただけですから。若林さんは何か言いかけてやめた。
俺は靴を履いての廊にた。も黙ったまま俺を見送った。
坂を登りながら、俺は自分が何を言いたかったのか何度も考えた。考えるほど言えなかった言葉の方が増えていく。に戻って、の入っていない釜のに座った。祖父は困っている客に湯を使わせるに、必ず理屈を先にてた。恩を着せる言い方も恵む言い方も、あのは1度も使わなかった。仕事の話にしていた。俺は膝を抱えたまま朝までそこにいた。
翌朝、俺はにもう度あの アパートへった。呼び鈴を鳴らすと扉をけたのは若林さんだった。壁にをついて、それでも自分のをっている。も学にくだったようだ。
俺は件をそのでった。
「うちの湯に働きに来てください」
「宮さん、それは体……」
「お世辞に来たんでじゃありません。うちはがりないんです。今も俺1でやっています。