"母は死んだと書いた娘" 第22話
浦先には私から事を説し、すっぽかした模試の代わりに、別枠での実力テストの受験と、公の般入試へ向けた切り替えの続きをめてもらった。 康平は、庭内での発言力を完全に失い、葵のにもを挟まなくなった。 それは円満な解とは程い、戦のような沈黙だったが、葵が息を詰まらせずに暮らすためには、分な静寂だった。
季節は巡り、の厳しい寒さがって、京のに柔らかなのが吹き始めた。
。 桜のびらが青空にう、抜けるようなの朝。
私は午半に起き、いつものように台所にっていた。 フライパンので、黄の卵焼きがふっくらと巻きがっていく。 だしと、ほんのしの砂糖。 葵が好きな、いつものだ。
段ねのしい曲げわっぱのお弁当箱に、ご飯とおかずを詰める。 になっても、お弁当作りは続く。 仕げに、ゴムバンドのにさなきのメッセージカードを挟み込んだ。
『入学おめでとう。しい所で、葵らしく楽しんでね。朋代より』
黒く塗りつぶされることのない、私の名。
トントンと、軽やかな音をてて階段をりてくる気配がした。 リビングのドアがき、真しい濃紺のブレザーにを包んだ葵が入ってきた。 しびたスカートの丈、胸元の清潔なリボン。
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歳でこのに来たの、さくておどおどしていた女の面は、もうどこにもなかった。
「おはよう、朋代さん。いい匂い」
葵は屈託のない笑顔を浮かべ、ダイニングテーブルに座った。 朝のトーストとサラダを、美しそうにへ運ぶ。 その仕のすべてが、自然で、温かな常のに溶け込んでいた。
「はい、お弁当。筒も忘れないでね」
「ありがとう」 葵はお弁当箱を両で受け取り、通学カバンへと切にしまった。 カバンのファスナーには、志保さんの形見だったさな製のキーホルダーが、誇らしげに揺れていた。
玄関へ向かい、真しいローファーにを入れる葵。 の向こうにつ私を、葵は靴を履き終えてから、くるりと振り返った。
の柔らかなが、玄関のガラス越しに彼女の全を包み込んでいる。
「朋代さん」
葵は背筋を伸ばし、眩しいほどの笑顔で言った。
「ってきます!」
「ってらっしゃい」
私は微笑んで、を振った。
カチャリとドアがき、爽やかなのと共に、葵が軽やかな取りでへと駆けしていく。 ざかる音を聞きながら、私はく息を吸い込んだ。
彼女は私を、度も『お母さん』とは呼ばなかった。 そして私も、彼女に『娘』という枠組みを押し付けることはないだろう。
けれど、名を呼びい、美しいご飯を分かちい、同じ未来へと向かって歩んでいく。
世が何と呼ぼうと構わない。 これこそが、私たちが血を流しながらに入れた、世界でたったひとつの、私たちの族の形だった。