"息子が私の家を売る夜" 第25話
私の胸のにあったい澱のようなは、のに綺麗に溶けて消えっていました。 しみも、りも、悔もありませんでした。 ただ、自分のの舵を、再び自分のでしっかりと握り直したという、静かで力い誇りだけが、全を満たしていました。
ヶ。 の旬を迎え、の杏並が鮮やかな黄に染まる季節になっていました。
武蔵野の静かな宅に佇む、しく設されたサービス付き齢者向け宅。その階の角部が、私のしい「」でした。
向きのきな窓からは、かな陽射しがたっぷりと差し込み、部の隅々までるく照らしていました。窓ののベランダには、練馬のの庭から成瀬先が運んでくれた、健さんが切にしていたハナミズキの鉢植えが、の訪れをに赤いさな実をつけていました。
部のローテーブルのには、夫の写真てが置かれていました。 写真のの健さんは、と変わらない、穏やかで悪戯っぽい笑顔で私を見つめていました。その隣には、綺麗に磨かれた牛の角の印鑑が、桐の箱からされて、文鎮のようにちょこんと座っていました。
「健さん。練馬の、昨、無事に更になったそうよ」
私は、湯呑みからちるほうじ茶の湯気を見つめながら、夫の写真に語りかけました。
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「寂しくないと言えば嘘になるけれど……でもね、あそこにあったいは、何つ消えていないわ。私の胸のに、全部ちゃんと残っているもの」
練馬のは正式に売却され、宅ローンの残債に苦しむ介たちの元には、円の遺産も渡りませんでした。 の噂で、介はあの郊のを放し、駅くのさな古い賃貸マンションに引っ越したと聞きました。智美さんは所のスーパーのレジ打ちのパートを増やし、介も慣れない副業を始めたそうです。
彼らがこれから歩むは、決して平坦ではないでしょう。 けれど、それは彼ら自が蒔いた種であり、彼ら自が刈り取るべき現実でした。誰かの犠牲のに築かれた偽りの平穏よりも、たとえ苦しくても自分ので歩く活の方が、彼らにとっても本当の救いになるはずだと、私は信じていました。
コンコン。
控えめなノックの音がして、部のドアが楽しげにきました。
「おばあちゃん、こんにちは!」
現れたのは、ダッフルコートを着て、両に袋を抱えた由紀でした。 その頬はたいで赤く染まり、瞳はキラキラと輝いていました。
「由紀ちゃん、いらっしゃい。寒かったでしょう」
「ううん、駅から歩いてきたらポカポカしてきたよ。見て、これ! 学の帰りに、吉祥寺の名なおで買ってきたの。
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おばあちゃんの好きな、栗蒸し羊羹!」
由紀は嬉しそうに袋をテーブルのに置き、コートを脱ぎました。
「まあ、嬉しいわね。すぐにお茶を淹れ直すわ」
「私がやるよ。おばあちゃんは座ってて」
由紀は慣れた様子で台所にち、急須に茶葉を入れました。 背筋を伸ばして働くその姿は、しずつ、しかし確実にの女性へとづいていました。
「あのね、おばあちゃん。昨、推薦入試の次試験の結果がたの」
お湯を注ぐを止めずに、由紀が振り返りました。その顔には、誇らしげな笑顔が満に咲いていました。
「格だったよ。来の面接を通れば、から教育学部の学になれる」
「まあ……! 本当におめでとう、由紀ちゃん」
私の胸の奥が、じんわりとくなりました。
「おじいちゃんの写真ので、番に報告したかったんだ」
由紀は分のお茶を運んでくると、健さんの写真のに正座し、丁寧にをわせました。
「おじいちゃん、私、頑張るね。派な先になって、おばあちゃんに番に授業を見に来てもらうんだから」
写真のの夫が、目を細めて頷いているように見えました。
由紀が切り分けてくれた栗蒸し羊羹をに含むと、素朴で優しい甘みが、舌のに広がっていきました。 温かいお茶をすすりながら、私は窓のの青空を見げました。
誰かに定義された「ボケた老」でもなく。 誰かの都のために搾取される「無力な犠牲者」でもない。
私は、私自の志で選び取ったこの部で、自分の尊厳とともに、静かに、そして穏やかに呼吸をしていました。
首に刻まれていた見えない枷は、もうどこにもありませんでした。 私のには、私だけの、しく清らかなが、どこまでも穏やかに広がっていました。